インタビュー

2023.03.29

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Uターン後、オフィスワークから林業へ。自然を体感できる魅力的な町づくりに邁進

移住先を決める時、「地域にはどんな人がいるのか」は気になるポイント。縁も所縁もない地域に住むのならなおのこと。移住者について理解があり、温かく受け入れてくれる人がいると分かれば、住む地域を決める後押しになることも。ここ塩谷町には、そんな頼りになる先輩がいます。塩谷町に移住後、一度は町を離れたもののこの地に戻り、会社勤めから林業に転身という経歴の持ち主! ユニークな経歴とともに、町への思いも語っていただきました。

君嶋 陽一 さん

栃木県南部に位置する佐野市出身。結婚をきっかけに塩谷町へ。その後、宇都宮市に住まいを移した後、再び塩谷町で暮らし、林業に転身。薪の販売、キャンプ場経営、コーヒー豆の焙煎・販売を行う。

結婚を機に塩谷町へ。地域に馴染むも、一時は都市部に住まう

塩谷町役場から車で15分ほど。県道63号線を北上し、その後273号線に入って林道を進むと、見えてきたのは豊かな水をたたえる「東古屋湖」。ニジマスやヤマメなどが生息する町内屈指の釣りの名所で、近くには町営のキャンプ場もある。山に囲まれた自然豊かなこの地域で、林業を営みながら自身のキャンプ場を経営する移住者がいる。君嶋陽一さんだ。

「よくこの町の出身者と思われるのですが、実は移住者なんです。生まれ育った場所は、栃木県南部にある佐野市。結婚して婿養子となり、妻の実家があるこの町にやってきました。勤務先が町外ということもあり、当時はこの地域に身内以外の知り合いはいませんでしたね」と、移住当時を振り返る。

「でも、地域の消防団に入ったことで、町内の方々と知り合うことができました。みなさんが温かく受け入れてくれたのをよく覚えています。消防団では、消防機器の操作技術を競う大会があるのですが、それに向けて団員が一丸となって練習し、その後みんなで飲みに行ったりして仲を深めてきました」

君嶋さんは、この町の暮らしに馴染んでいたが、2011年に住まいを都市部へ移すことになる。

「私と妻は同じ職場に勤めていたのですが、息子が宇都宮市の高校へ進学する時期に、ちょうど夫婦そろって小山市(栃木県南部)に転勤することになったんです。通学も通勤もここからだと時間がかかるので、宇都宮市に引っ越しました」

 

都市部に住み、改めて気づいた塩谷町の魅力

宇都宮市での暮らしは、塩谷町に比べると買い物や交通手段などいろいろな面で便利だったという。その一方で、渋滞が激しい大通り沿いのマンションに住んでいたとあって、毎日が賑やかに感じていたとか。

「たまに塩谷町に帰ると本当に静かでいいところだなと実感しました。渋滞がないのでイライラすることもなく、心穏やかに過ごすことができるんです。ただ、その当時は宇都宮市に住む方が都合が良かったので町に戻ることは考えていませんでした」

しかし、そんな君嶋さんに再び転機が訪れ、2020年に塩谷町に戻ることになった。

「義父が他界したことや義母の体調に不安が出てきたこともあり、塩谷町の実家に戻りました。その際に妻は退職し、私は塩谷町から通勤をすることに。片道4時間かけて小山市まで電車通勤をしていました」

通勤に時間はかかるものの、実家のある東古屋地域の自然環境は好きだったため、町に戻ることに抵抗はなかったという。

 

再び塩谷町へ。薪を割る生活を始め、林業に転身

再び塩谷町での生活を始めた君嶋さん。そこから林業に転身するきっかけが訪れる。

「ある時、自宅の裏山に草がたくさん生えているのを目にし、ここは亡き義父がいつも手入れをしてくれていたんだと気付きました。義父は生前、林業を営んでおり、蔵にはチェーンソーや草刈り機などが残されていたんです。とりあえずここの草を刈らなくてはと、見よう見まねで草刈り機を持ち出して山の手入れをしました」

山の管理には間伐も必要だったことから、君嶋さんは義父のチェーンソーで伐採に挑戦。まったくの初心者だったが、消防団で知り合った林業を営む人から手ほどきを受けたことで、山の手入れを進めることができたという。

「家の目の前には町営のキャンプ場があり、焚き火を楽しむお客さんがたくさん来るんですね。それで、試しに切った木を薪にして販売してみたところ、これが意外と売れたんです」

次第にオフィスワークよりも、体を動かす山の仕事に魅力を感じるようになった君嶋さん。キャンプの需要が増え、薪の販売に手応えを得られるようになったことから、2022年1月に会社を退職。林業に専念する道を選んだ。

 

林業を通して、自然を存分に体験できる魅力的な町へ

現在は薪の販売だけでなく、焚き火で焙煎したコーヒー豆の販売や東古屋地区に作った自身のキャンプ場の運営など活動の幅を広げている。その原動力となっているのは、「この地域を元気にしたい」という思いだ。

「塩谷町に戻った時、自然の豊かさは変わっていませんでしたが、人口が減って活気がなくなってきていると感じました。町を元気にするためにも、まずは自分が暮らす地域の豊かな資源を生かし、たくさんの人が楽しめる自然体験の場を作っていこうと考えたんです」

その考えは君嶋さんだけではなく、息子さんやその友人たちなど20代の若者も抱いている。実際にトレッキングツアーや地元の野菜を販売するマルシェを開催し、君嶋さんは若手のこうした活動から刺激を受けることも。

「息子からの提案でグリーンツーリズムに携わり、都内の大学生を受け入れました。薪割りや焚き火でコーヒー豆を焙煎するといった体験を通して、自然の魅力を感じてもらえたようです。今後もこうした体験を受け入れたいですし、若い人たちが何を始めようとする時はできるだけ協力していきたいですね」

 

地域を活性化し、今後は雇用の創出につなげたい

林業やキャンプ事業に専念してから1年。君嶋さんは、地域の漁協組合や町役場の職員たちとの交流が増え、東古屋地区を盛り上げていく基盤が少しずつ整い始めていることを実感している。

「この地域には釣りやキャンプを楽しむ人が多く来るので、その方たち向けにもっと何かできたらいいなと思っています。例えば、ここの資源を生かした入浴施設を整備するとか。建物はログハウスで浴槽は総ヒノキ、お湯は薪ボイラーで沸かし、余った熱で薪を乾かす…なんてことを構想中。もちろん、個人では難しいので、地域や役場の方々と協力していければと思っています」

将来的には自然体験の拠点としてたくさんの人が利用できる環境に整え、町を発展させたいという。その構想には、観光客を呼ぶだけでなく、雇用創出の意図もある。

「実を言うと、私が塩谷町で暮らすことができた大きな理由は、通える範囲に仕事があったから。やはり移住には家だけでなく、生活を支える仕事も重要です。自然体験を通して町の魅力を知ってもらい、住んでみたいと思った時に、仕事がないことを理由に諦めてほしくないですね。働く機会をつくることも含めて町の発展に貢献したいです」

移住者としての視点も、この町で生きる人としての視点も持ち合わせている君嶋さん。その存在は、新しい一歩を踏み出そうとする人にとって心強いに違いない。