インタビュー

2024.06.13

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関わった人はみんな家族。地域の想いに寄り添う訪問看護師

人生の後半で老いを迎えると、病気や障害を抱える可能性は誰にでもありますよね。

残された時間を病院や施設ではなく、住み慣れた家で過ごしたい。

お家のご飯を食べたい。家族と一緒にいたい。

今回は、そんな地域の想いに応えている塩谷町の看護師をご紹介します。

福田 美香(ふくだ みか)さん

看護師。
訪問看護ステーションたいよう代表。
病院、特別養護老人ホームでの勤務を経て、2023年に訪問看護ステーションを塩谷町に開設。
趣味は温泉巡り。

在宅ケアへの興味から、訪問看護ステーション立ち上げへ

「よくあるじゃないですか、誰かに憧れて看護師になりました、とか。

そんな綺麗な話は私にはないんです」

そう気さくに笑って話し始めた福田さん。小学生の頃から塩谷町で暮らしています。


「中学の進路選択で親に看護師を勧められたんですが、正直なりたくないし、なれるわけないでしょと思って。

ただ当時、大田原女子高に衛生看護科があって、先生から入れるわけないだろうと言われたら急に闘争心が出てきて(笑)

合格して実際に看護を勉強してみると、自分に合っていて楽しかったので、そのまま専門学校に行って看護師の資格を取りました」

最初は精神科、その後は症状が出始めの患者を受け入れる急性期の病院に所属。

訪問看護に興味を持ち始めたのは、働いて15年ほど経った頃でした。

「高齢者の方で、本当は自宅に戻りたいけど家での生活に自信がなかったり、

家族が不安で病院から施設に入るケースをたくさん見てきて、

元気なのにお家に帰れないのはちょっと寂しいなと思っていました。

その中でも、訪問看護を利用すれば帰れる方もいて、

リラックスできるお家で医療的なケアまでできるのはいいな、私もやってみたいなと」

 

訪問看護師は医師からの指示を受けて、利用者の自宅で点滴などの医療処置を行うことができます。

些細な変化に気づく観察力や、一人で対応できる判断力が必要な仕事でもあるそう。

利用者の多くは高齢者のため、福田さんは特別養護老人ホームでも3年ほど勤務し、知識と経験を深めていきました。

開業までの準備が大変で、何度もくじけそうになりました」と語りながらも、

看護師として21年目になる昨年の7月に、訪問看護ステーションたいようを塩谷町に立ち上げました。

 

利用者とその家族に寄り添う日常

玉生小の隣、役場にもほど近い町の中心部にある「たいよう」。

福田さんをはじめとした4名の看護師が在籍しており、24時間365日体制で町内や近隣地域の利用者をサポートしています。

いつも福田さんが心がけているのは、相手の立場になって寄り添うケア

「やっぱり他人が自宅に来るわけだし、緊張しちゃうと思うんですよね。

ましてや看護師が来るっていうと、何をされるのかな……みたいな。

なので、利用者さんもご家族もなるべく緊張をほぐせるようなリラクゼーションを大切にしています」

 

支援を続けるうちに利用者さんに良い変化があらわれたり、

少しでも反応が返ってきたりすると嬉しいと話します。

 

春の陽気が心地良いこの日、福田さんが訪問したのは町内の利用者さんのご自宅。

血圧を測定後、身体を拭き髪を洗い、服を着替えて外へと出ました。

 

「看護師さんに入ってもらって、床ずれもせず良い状態で過ごせています。

たいようさんがいたから、義母を家に連れて帰ることができました

そう話すのはご家族の方。

一カ月ほど入院していた病院から退院する際に、ケアマネージャーから「たいよう」の紹介を受けました。

晴れた日は庭を眺めながら、皆でおしゃべりをして終わるのがお決まりの流れです。

 

時には余命わずかな終末期の方を担当することもあり、最期までの限られた時間をどうつくっていくのか、ご家族と何度も話し合いながら一緒に考えます。

そんな福田さんと利用されたご家族は、訪問看護の契約が終わっても関係が続いているそう。

「本当にあったかい人たちばかりなんです。

畑で野菜ができたから取りに来なって連絡をくれたり、

空いた時間に一緒にランチに行ったり、

こっちもどうしてるかなと思って『元気?』って電話したり。

小さい町だからこそ、関わった人はみんな家族、みたいな(笑)

そういった、残されたご家族とのつながりも大切にしています」

誰もが気軽に頼れるまちの「たいよう」に

高齢者が増えていくこれからの日本社会では、病院だけではなく、より在宅での医療が必要になってくるといいます。

まだ遠く見られがちな訪問看護を、誰もが気軽に頼れるようになってほしいと願う福田さん。

「訪問看護って聞くと難しく感じるかもしれないけれど、

『お家で過ごしたい、過ごさせたい。でも人の手を借りないと家では不安だ』

そんなご本人や家族の想いを私たちが汲み取って伴走しているだけなので、大したことはやっていないんです」

 

「たいよう」には介護福祉士も所属しており、今後は介護や子どもの見守りなどにも手を伸ばして地域に貢献していきたいと話します。


「ちょっとした積み重ねを続けていけば、高齢者や子どもたちにやさしい安心できる地域ができるんじゃないかなって」


町内唯一の訪問看護ステーション。

福田さんの「たいよう」は、塩谷の未来をあたたかく照らしています。
 


(4月15日取材 地域おこし協力隊 小松原啓加)