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生きる力は田舎にある。「おいしさ」で自然を身近に伝えるおにぎり屋さん
田舎で自分のお店を開く。
地方への移住に関心が高まっている近頃、そんな夢を持っている方は少なくありません。
塩谷町にも地域おこし協力隊を経て、退任後にお店を開業した移住者の方がいます。
これまでの生き方、そして塩谷町について、等身大の思いを語っていただきました。
大塚 元子(おおつか もとこ)さん
1978年生まれ、栃木県那須塩原市出身。
2019年に塩谷町へ移住し、地域おこし協力隊として山林の有効活用に取り組む。
退任後、町内に自身の店「喫茶玉吉(きっさ たまよし)」をオープン。
趣味は読書と瞑想。
林業への興味から地域おこし協力隊に
「塩谷はやっぱり水が豊かだなと思います。
鬼怒川が流れていて、水が湧く尚仁沢(しょうじんざわ)があって。
だからお米も野菜もおいしいし、蛍もいる。
こうやって自然の力が残っているというのはすごいことだと思います」
ランチタイムが終わった店内で、穏やかにまちの魅力を話す店主の大塚さんは、2019年に移住した元地域おこし協力隊員です。
3年間の活動期間ののち、2022年6月からおにぎりをメインとした飲食店を営んでいます。
大塚さんの生まれは県内の那須塩原市。当時は合併をする前で、「塩原町」の名前でした。塩谷町より少し北、温泉で知られている地域です。
作新学院高校を卒業後、専門学校への進学で県外に出ましたが、その後栃木県に戻り、大田原市や宇都宮市の医療施設で看護助手として働いていました。
塩谷町に住むきっかけとなったのは、転職を考え始めた際に芽生えた林業への興味でした。
「伯父が木材を扱う仕事をしていて。
売れ残った木がいっぱいあったので、その販売を手伝おうかと思ったんですが、次第に林業がやってみたくなりまして」(大塚さん・以下同)
半年間、日光市の個人会社で間伐などの仕事に挑戦しましたが、林業は全くの未経験。
上手く作業についていけず悩んでいたとき、塩谷町の地域おこし協力隊についての情報を耳にしたそうです。
もともと大塚さんは、仕事のほかに塩谷町で里山保全の活動に関わっていました。
山を活かし、未来に繋げていくためのお手伝いをしたいと協力隊に応募し、2019年4月に着任しました。
山林を活用したおもちゃとイベント
まちの約60%が山林の塩谷町で「森林の有効活用」をミッションに掲げた大塚さんは、町内の山と森を使って幅広く活動します。
その身近な成果の一つが木製の知育つみ木です。
子どもが舐めても害のない塗料で塗られたカラフルなつみ木は、塩谷町こども未来館(通称しおらんど)に置かれました。
「協力隊になってまちで話を聞くと、『人口が減っちゃってね』と言う人がやっぱり多い。
なので、子育て世代の若い人に興味を持ってもらえれば、もう少し塩谷町も賑わうんじゃないかなと思って。
自然に関わるもので何かできないかと作りました」
協力隊2年目には山の斜面を借りて、地域の人と山道をつくるプロジェクトを実施しました。
任期最終年度に完成し、コースとして利用したウォーキングイベントも開催。
その道は「前山どんぐり坂」と名付けられ、今でも近隣の人たちに親しまれています。
自然を身近に感じられる飲食店を
塩谷町に溶け込みながら、3年間森林の活用を行ってきた大塚さんは、現在おにぎり屋さんを経営しています。
森林から食べものへ、一体どのような気持ちの変化があったのでしょうか。
「せっかく縁があって塩谷町に来たので、町外へ勤めに通うよりは町内で仕事をしたいし、もともと自営業をやる気持ちはありました。
ただ、自分一人で山の手入れを請け負えるほど技術もないし、 機械もないしね。林業は相当修業しないと無理だと思ったのもあって。
でもなんか、自然っぽいことをしたかったんです。
じゃあどうしようかとなったとき、前からコーヒーを飲む場所が欲しいと思っていたので、飲食店をやるのに加えて、野草茶ワークショップや苔玉なんかも作れるようになったらどうかなと。
田舎だし、自然に触れながら飲食もできる場所を始めることにしました」
塩谷町の魅力は水の良さ。お米もおいしいため、おにぎりを出したらと弟さんの提案があったそうです。
役場からは起業のための支援金の助成を受けて開店準備を進めました。
「皆さんにお尻を持ってもらって」と控えめなご本人ですが、メニューの開発やシェアキッチンでのお試し出店を経て、協力隊退任2か月後に待望の「喫茶玉吉(きっさ たまよし)」をオープンさせました。
店名は、お店のある玉生(たまにゅう)地区の「玉」と大吉の「吉」を取り、「ここで暮らす方々にいいことがありますように」との想いが込められています。
町内産のお米、野菜、野草茶
塩谷町産100%のお米にこだわったおにぎりが気軽に味わえる喫茶玉吉。
お食事セットに付く季節の野菜を使った日替わり料理は、大塚さんのお母さんが調理されています。
飲み物のメニューにはどくだみ茶、かきどおし茶など珍しい名前が。
お客さんに自然を身近に感じてもらうための、大塚さんならではのアイディアです。
「例えば、ドクダミがいっぱい庭に生えてくると邪魔だなって思われるのがちょっと悲しくて。
取ってひと手間加えて、こういう楽しみ方もあるよってわかってもらえるのもいいのかなと思っています」
開店2年目に入り、資金繰りの難しさを感じているそうですが、「おいしかった」と帰ってもらえるのはもちろん、地元の人の集まりでのテイクアウト利用や、「ここで桑の葉茶を飲んでから家でも飲むようになった」などの声が嬉しいといいます。
今後はテーマを設定したお話会や、リース作りのワークショップなど、お店という“場”を利用したイベントを積極的に企画していくとのことでした。
生きる力は全部田舎にある
取材の終わり、塩谷町民歴5年目になる大塚さんに、まちへの想いを伺ってみました。
「今栃木県内で1番人口が少なくなったこのまちで頑張ることで、みんなで一緒にボトムアップできたらいいなと思っています。
田舎だから地味で都会だから華々しいとか、もうそういう世の中ではないので、田舎の人こそ胸を張って生きていいと思うんです。
生きる力は全部田舎にあるなと思うので。私は田舎暮らしの方が魅力を感じられるし、生きていて楽しいです」
最後まで飾らない姿にあったのは、おにぎりのように中身の詰まったあたたかい言葉でした。
その謙虚さ、丁寧さがあふれる喫茶玉吉で、今日も大塚さんは塩谷の自然とおいしさを伝えています。
(2023年9月5日取材 地域おこし協力隊 小松原 啓加)