インタビュー

2023.12.26

「ここのはおとなしい」。ミツバチと丁寧に向き合う二代目養蜂家

普段わたしたちが何気なく食べているはちみつ。

身近な食べものですが、ミツバチの巣箱からそれを採取し、販売している養蜂家についてはあまり知られていません。

そこで今回は、町内で養蜂に携わり、国産はちみつ専門店を営む方をご紹介します。

小野田 裕一(おのだ ゆういち)さん

1984年生まれ、塩谷町出身。玉生美蜂場二代目代表。
工業高校を卒業後、県内の技術者派遣会社に勤務し、2010年より玉生美蜂場で養蜂に従事。
趣味はラーメンを食べること。

父の跡を継いで養蜂の道へ

玉生美蜂場(たまにゅうびほうじょう)」は、国道461号線から一本北に入った玉生宿区の中心部にあります。

塩谷町を拠点に、家族で養蜂を行っている国産はちみつ専門店です。

12月半ばの昼下がり。

まずは代表の小野田さんと、お店の裏にある養蜂場へ。

冬場のミツバチは、巣に蓄えたはちみつを食糧にして春を待ちます。

この日は気温が比較的高かったため、日の当たっている巣箱から少数のミツバチが出入りをしていました。

小野田さんがそっと巣箱を開けると、固まって暖を取っているミツバチたちの姿が。

 

この店舗裏をはじめ、近隣市町を含む計6ヵ所でセイヨウミツバチを飼育している玉生美蜂場。

小野田さんが初代代表の父・正さんから本格的に養蜂を学び始めたのは、26歳のときでした。

それまでは技術者派遣会社で車の設計をしていましたが、長時間労働が当たり前の生活だったといいます。

「冬なんかさ、朝ちょっと薄暗い時間に会社に出勤して、帰るときも21時ぐらいで(外に出ると)暗いじゃん。

季節感も何にもないなと。これを一生やっていくのかと思ったらね」

 

当時リーマンショックの影響で、会社は早期退職者を募っていました。

2010年に仕事を辞めると、塩谷町の実家で養蜂業を継ぐ道を歩み始めました。

ミツバチを潰さないこと

現在は、小野田さんと正さん、母・まゆみさん、妹・珠美(たまみ)さんの4人で作業を分担しながらはちみつを採取し、一切の加工なしで販売しています。

また、栃木県といえばイチゴ。

玉生美蜂場では、イチゴ農家さんに巣箱の貸出しも行っています。

10月から5月までの間、ミツバチはハウスの中を飛び回り、花粉を集めることでイチゴの受粉を手伝います。

大きく立派な実を育てるためには、この「ポリネーション」というミツバチによる花粉交配が欠かせません。

 

養蜂家として13年になる小野田さんがいつも心掛けているのは、ミツバチを潰さないこと。

驚くことに、ハチをどのように扱うかで彼らの攻撃性は変わってくるのだそうです。

「潰すと敵に巣を攻撃されると思うんだよ。

で、においを出して巣の中に知らせるから、何回も繰り返すとハチが荒くなってくる。

それに、ハチに食べさせてもらってる以上、むげに殺すのは失礼でしょって思うからね」

 

この日、巣箱を開ける小野田さんは煙でミツバチをおとなしくさせたのみで、面布(頭部を守るための帽子)を被っていません。

春の採蜜の際も、働きバチが周りをブンブンと飛び回る中で素手のまま、半袖で作業されていました。

「『ここのハチはおとなしいね』って他の養蜂家によく言われる。

ちゃんと扱っていればそうなるんだよ」

小野田さんが肌を出していても刺されないのは、普段からミツバチに丁寧に接している証拠なのでしょう。

 

前職では社内で仕事が完結していた分、消費者と直接関われる今の仕事は性に合っていると語ります。

お客さんが喜ぶところがちゃんと見られるんだよ。

自分で採ったものを売るわけだから、『美味しかったよ』とか色々コミュニケーションもとれるし。

ミツバチを貸すにしても農家さんと顔を合わせるから、『おかげさまでいっぱいイチゴ取れたよ』とかね、そういう話が聞けてモチベーションが上がるってのはあるかな」

 

数少ない国産はちみつ生産の担い手として

養蜂は地面にある巣箱を扱うため、常に中腰で作業します。

玉生美蜂場では多い時で巣箱の数が500を超え、体力も必要になります。

仕事で大変なことを尋ねると、「腰痛が…」と即答されますが、今後も養蜂家として安定的にはちみつを供給したいといいます。

「これだけ自然環境が悪くなっている世の中だし、(はちみつの)質を上げていきたい」

 

分類上は畜産業に入る養蜂ですが、小野田さんは町の青少年クラブ協議会(4Hクラブ)に所属し農業のPR活動も行っています。

「若い人たちに、広いくくりでこの業界に入ってきてもらえるように」と、若手農家同士でマルシェを開催したり、こども園の農業体験を手伝ったりと意欲的です。

 

豊かな自然環境の減少に加え、養蜂家の高齢化や後継者問題などで、国産はちみつがますます貴重となっている昨今。

養蜂家として、これからも小野田さんはミツバチと向き合い、40年続く玉生美蜂場の次の時代を担います。

 


(12月13日取材 地域おこし協力隊 小松原啓加)